「いいものを長く大切に」される方へ、
信頼と誇りのかけはぎをお届けする。
この仕事に就いたきっかけを教えてください。
私は、かけはぎ職人としては曾祖母・祖父・父と代々数えて四代目となります。
もともと弊社の先代である父からは「子供には絶対に仕事を継がせない」と散々言われて育ちましたので、私もまったくこの仕事をするつもりなく過ごしていました。
大学では幼い頃から興味のあった法学部へ進んだのですが、就職活動に入る前の時期にたまたま父や祖父と集まる機会がありまして、私としては思うところがあって「かけはぎをやりたい」と父に言ったんですね。当然父からは大反対されまして、結局最初は教えて貰えないので、おなじくかけはぎ職人である祖父が私を預かってくれるという形になりました。大学はまだ1年以上残っていましたが、こういった経緯で学生時代から針を握ることになりました。
うちは代々かけはぎ職人をしていると言いましたが、曾祖母は私が幼い頃に他界していますので、直接仕事を教えて貰ったのは祖父からになります。はじめは自分でも驚くほど仕事が出来ず、祖父や父だけでなく沢山の先輩方に迷惑をかけました(笑)
今となってはそういった経緯や経験が自分の財産だと実感しますが、日々私自身も職人として後輩を指導したり先輩と議論したりする中で、技術を学んだり、伝えたりする難しさを感じますね。
『かけはぎ工芸織本』について教えてください。
弊社は、かけはぎの専門店として創業以来歩んで参りました。また、当初は有限会社でしたが、私の入社と前後して株式会社となりました。おそらく「かけはぎ屋」の株式会社というのはかなり珍しいのではないでしょうか。
かけはぎを受けてらっしゃるお店さんは日本全国に沢山あるのですが、そのほとんどは弊社のような専門店に外部委託をされています。なかには「かけはぎ店」をうたっていても自社でかけはぎを行っていないところもあります。それに対して、織本ではお預りから施工・検品まですべて社内で一貫して完結しているのがひとつの特徴です。
そのため、一流アパレルブランドや洋服の修理業者様はもちろん、個人のお客様からのご依頼であっても一着一着確かな技術をお届け出来、多くのご支持を預かってきました。
また、中間に余計なマージンが掛かりませんので、おそらく同じ大きさのお傷の工料で比較した場合に同業他社様より比較的リーズナブルな価格を実現しています。
すべて社内工房にて施工しているのですね。
そうですね。かけはぎに関して外部委託は一切しておりませんし、職人は全員織本の社員です。そもそも私自身、職人がメインで経営は傍らというスタンスですが、先代から「まずは自身が最高の職人たれ」と言われ続けていましたので、社内に私より先輩の職人さんは先代も含め沢山居りますが、お互い職人としていつも横並びで、学び合って日々研鑽を重ねていく存在でありたいと思っています。
織本の「かけはぎ」の特徴はありますか?
織本では服を『治す』と表現するのですが、これはときにかけはぎが衣服の外科医のようにたとえられるところからも来ています。傷ついたり破れたりしてしまったお客様の大切な衣服を修繕し、新たに命を吹き込む仕事という意味でも、服のお医者さんのような存在でありたいとは思います。
また特徴としては、織本ではかけはぎ専門の職人が多数居りますので、技術の停滞がないということ、つまり「イノベーション」が起きているということです。職人一人一人はいち職人としてお客様の衣服と日々向き合いますが、職人の横のつながりによって「より良いお仕上がりに向けた話し合い」が工房では自然と起きます。店舗やキャリアを超えた技術やサービスのディスカッションは愉しく、また刺激的といえるものです。
織本に数ある技法はあくまでベースであって、そこから発展する様々な可能性に織本の真骨頂があります。
各店舗に職人さんがいるのでしょうか。
はい。それぞれの店舗は工房になっておりまして、数人ずつ熟練の職人が居ります。
織本のかけはぎというのは完全手作業ですので、正直なところ一日に施工できる数に限界があります。決して数を追うのではなく、一着一着を丁寧にお預りしたいという想いですので、各店ともにお世辞にも大きなお店ではありませんが、それぞれの店舗や職人さんに良い意味での個性や特徴がありまして、そういうところを私はとても気に入っています。
「かけはぎ」をどういう方におすすめしますか。
昨今、時代の移り変わりとともに、かつて高価だった衣服も手軽に手に入れやすくなり、ファッションを含めたライフスタイルそのものが大きく変化しています。
しかし、たとえ時代が変わっても、人々の衣服への想い、ファッションへのこだわり、「大切な思い出の詰まった服」への愛着は変わることはありません。
また近年、地球環境への負荷軽減やより持続可能な社会の実現を目指した時、「良いものをより長く大切にする」という昔ながらの価値観が見直されています。
昔から「衣・食・住」というように、衣服は暮らしに関わる重要な要素として、いつも生活の中にありました。誰かからもらった思い出の服、初めてのお給料で買った服、親から子へ受け継がれた服など、衣服には単純な値段や市場価値では計れない、持ち主ならではの愛着が生まれていくものです。
そんな愛着を持った衣服が傷ついてしまったとき、確かな技術でお悩みに応えられる店でありたい。お客様に最も寄り添った技術者集団でありたい。その強い想いが、かけはぎ専門店として私たちかけはぎ工芸織本に根付くスピリットです。
私も含めすべての職人が、お客様がお気に入りの衣服をより長く大切にご着用頂けますよう、より良いかけはぎの追究に努めて参ります。
大切な衣服の傷や虫食いでお困りの方に、諦めてしまうその前に、まずはご相談いただければ幸いで御座います。